赤や黄、青や緑の照明がぐるぐる回る。まぶしい。
ピンクのマイクロミニスカートが踊っている。足の長い女が背の高い男に寄り添っている。女数人が大声で笑っている。紫のキャバドレスを着た女がカクテルを持ってしたりげに歩いている。電子的なクラブミュージックが媚薬のように沁みてくる。何とかしなければと思う。でも手を出せないまま時間ばかりたっていく。
俺は三十歳。この年でクラブはないと思うが、ナンパするならクラブのお持ち帰りがおススメだと友人に言われ、金沢市内の人気クラブにひとりで来た。
だがここでのナンパはハードルが高いとすぐに感じた。フロアにいる若い男女が自分とは言語も食生活もまるで違う別次元の生物のように見えてくる。声をかけたり身体に触れたりしたら電流が流れてきて失神してしまうのではないかと思ったりする。クラブに来てやがて二時間。俺は孤独だった。
―あいつ適当なこと言いやがって。なんでお持ち帰りがおススメなんだ。まいったな―
俺は暇つぶしにお酒を飲み始めた。話し相手が見つかるまでは酒はNGを自制していたが、酔わないと持たない気がした。
時計を見ると午前一時。友人の話では日付が変更になったあたりからナンパの機運が一気に盛り上がるという。理由はよくわからないが、その頃になるとお酒が程よく回ってくるし、そろそろここを出て次のステージに行きたいと思い始めるかもしれない。
ひとりだけ気になる女がいた。真っ赤なタイトスカートの尻がむっちりした二十代半ばくらいの女。女友達数人と来ているが、たまにひとりで自由に歩く。肩まで伸びたカーリーヘアの色が照明でカラフルに変化するのを、俺はフロアの装飾品を見るかのように眺めていた。
―あの女に声をかけて断られたら帰ろう―
ふだん眠ったままの心の一部を掻きむしるような音楽と照明、そしてフロア全体に立ちこめる動物的な匂いに疲れていた。ナンパするならあの女しかいないから、あの女でだめなら今日はお開きだ。
―でもどんなことを喋ったらいい? こういうときどんな言葉をかければいいのか―
時間をかけて考えれば説得力のある言葉のひとつやふたつ思いつきそうだったが、考えるのも面倒で、ありのままの事実を伝えることにした。
「さっきから君のことが瞼に焼き付いて離れない。どの場所にいても君が飛びこんでくる。これからどこか行かない?」
彼女は意識を失う寸前のような惚けた顔をすると「いいよ。どっか連れてって」と無邪気に言い、仲間にむかってピースサインを送った。俺の疲れは一気に吹き飛ぶ。
この流れを止めてはならない。止めたら終わりだ。
彼女は別次元の生物ではなかった。乳房は柔らかく美尻で、立派な陰部を持った人間の女だった。その夜クラブに来た目的を果たさんと、俺と彼女は明け方までお互いを貪った。
「あんなこと言われたの、初めて」
彼女は俺の誘い文句が気に入ったようで、折に触れてそのことを口にした。
虚飾に満ちた空間では、飾らない言葉が女をとらえる。
クラブのお持ち帰り。おススメだ。