
「ナンパが下手な男はナンパしやすいのよ」
五歳年上の歯科衛生士から逆ナンされたとき、そんなことを言われた。
「逆ナンするときはね、君みたいな男を狙うのよ」
ストローでアイスコーヒーをかき回す妖しい指先を俺は見た。褒められているのか馬鹿にされているのかわからない。彼女は俺の顔をじっと見ると、小首をかしげて微笑む。
俺はナンパが初体験だった。不安もあったが女が欲しくて仕方ないので山形市内のナンパスポットに出かけていき、男からのアプローチを待っていそうな可愛い女に声かけした。でも結果はことごとく失敗。断られたり逃げられたりするのはまだましな方で、一番きついのは「無視」だ。何を言っても視線ひとつ合わせてくれず無視される。まるで俺の姿が見えていないかのよう。そのくせ他の男から声がかかったらにこやかに応対するからまいってしまう。こんな屈辱は味わったことがない。
そんなこんなで三回ほど失敗してナンパを諦めようとしていた矢先、彼女から逆ナンされたわけだ。彼女は俺が何度も撃沈されるのを観察していたらしい。
「初体験でしたから・・・慣れていなくて」
「なんで相手にされなかったと思う?」
「緊張してたからかな」
「わかってるじゃん。まるで診察室に入ってくる患者さんみたいだったわ」
俺の顔は緊張で引きつっていたという。そんな顔で「お茶しませんか」などと言われてもキモいだけだと彼女は言う。根が暗くて気の小さい男にしか見えず、そんな男にわざわざついて行く物好きな女はそういない。
「じゃあなんで貴女は僕をナンパしたの?」
「私みたいなおばさんに声をかける男はいないからね。こちらから動かないと出会いもないのよ」
「僕は逆ナンしやすい男なのか」
「気が小さそうな男はね、すぐに落ちるの」
彼女とはお茶しながらしばらく会話したが、時間が経つにつれて彼女がやきもきしだした。
「あのさ・・・私とどうなりたいの?」
「どうなりたいって。それはこっちが聞きたいくらいかな」
「それがだめなの。男ならはっきりとこうしたいんだって主張しないと。デートしたいならデートしたい、エッチしたいならエッチしたい。はっきり自信をもって言わないと女の心は動かないわよ。正直言ってナンパで知り合った後は勢いなんだからね。時間が経てば経つほど冷めちゃうのよ」
「だったら・・・エッチしたい」
「もっと大きな声で、しっかりと」
子供を指導する先生のような言い方。
「エッチしたい」
「よろしい」
逆ナンされて説教されて即エッチ。悲しむべきか喜ぶべきか。とりあえずアラサー女の身体は熟していて気持ちいいセックスができたけど、いまいち男としての精神的な充足感にかけた。
彼女とは三回会って、合計五回セックスして別れた。遊ばれて終わりという感じだった。
俺は今、リベンジプランを立てている。
今度こそ自力で女をナンパし、自力でセックスに持ち込んでやる。これができてこそ一人前の男になれる気がする。
ナンパは男を磨くいい訓練の場だ。