ネットナンパという言葉がある。
文字通り出会い系サイトなどのネットの世界で女性をナンパすることだ。
こう言うと、むやみやたら女性にメールをばらまいたり、掲示板に色めいたことを書きまくるのをイメージするだろうが実際は違う。
通常のナンパと異なり、ネットナンパは堅実で地味なんだ。
今日はネットナンパとは何か。その極意を紹介しよう。
まずネットの特徴を考えてみたい。
ネットの世界ではまず相手の顔が見えないし声も聞こえない。
これが大きな特徴だ。
生身の人間同士が向き合った場合、五感を駆使して相手の人となりを判別することもできるだろうが、ネットはそうはいかない。
判断材料は、そこに書いてある文章だけになる。
ネットでナンパするには、その文章に最大限気を遣わなければならない。
ではどんな文章を書けばいいか。
考えるまでもない。信用できる人間だと思わせる文章だよ。
ネットの世界で最も必要なのが「信用」であることは君も知っての通りだ。
例えば出会い系サイトのプロフィールにこんなことを書く輩がいる。
「あ~あ暇だなあ。誰か遊ぼ~」
こんな男を女性が信用すると思うか?
会ってみたいと思うか?
仮に真実だとしても、
「久しぶりにオフになりそうなので、誰かと遊びたいな」
くらいに脚色すべきだ。
「女がほしい。今すぐエッチしてえ~」
論外。素通りされる典型パターン。
相手が体目的OKの女性だったとしても、こんな男と寝たいとは思わない。
「彼女いない歴二十五年です。泣」
これもだめ。モテない男だと思われるし、自分に自信がない男だと思われる。
仮にそれが真実だとしても、いちいち真正直に書く必要はない。
あくまで自分を肯定的に表現するのだ。
「今、おつき合いしている人はいません」
これで十分。
とにかく、ポジティブな性格の紳士的な男だと主張することが肝要だ。
しかし堅物に見られるのも困りもの。
「明け方まで飲んだりなんかして、たまに羽目外すこともあります。でもそのままきちんと出社するんですよ」
なんて書いておくと、バイタリティと責任感に満ちた好男子と思われる。
俺も出会い系に登録してるけど、プロフィールはほぼ完璧だ。
もちろん半分以上は嘘っぱちで、女性に対して餌をまいているに過ぎないとも言える。
しかし嘘から出た誠という言葉もあるから、掲示板だけは多少無理してでも充実させておこう。
デメリットもあるかもしれないが、メリットのほうが大きい。
これがネットナンパの基本。
この方法のおかげで、俺は出会い系の女性からむげに断られたことがない。
すっぽかしもないし、顔パスもない。
連絡したらほぼ間違いなく返事が来るし、会ってくれることが多かったな。
この前もそうだった。
俺のプロフを見て、新潟市に住む女性が連絡してきた。
「福岡にお住まいですか? 会いに行こうかな」
「僕が新潟に行くよ。新潟初めてだし、行ってみたいな」
ほかの女性からもメールをもらっていたけど、丁重にお断り。
彼女が一番綺麗だったから。
別にこれは不謹慎なことではない。
女性を選ぶ歳の選択肢をはっきりさせておくのもネットナンパのポイントだよ。
相手選びの基準があやふやだったら軸がぶれて戦略的に動けなくなる。
小雪が舞う新潟空港。
日本海側の天候は暗いと聞いていたが、そのとおりだった。
ところで驚いたことに空港に彼女がいた。
新潟駅で十分だと言っていたのに、まさか空港まできてくれるとは。
「何となく空港までいかないといけないと思って」
こちらが誠実だと、相手も誠実にふるまってくれる。
それからリムジンバスで新潟駅南口へ。
車内での会話にも気を遣う。
なるべく共通の話題を提供する。
彼女の趣味は映画鑑賞。
俺は前もってここ数年で封切られた映画をすべてチェックしたよ。
実際観ていなくても、どんな映画が流行ったのか把握するだけで全然ちがう。
「ビリギャル観ました?」
と彼女。
「観てないけど、泣ける映画なんだよね。君は泣いた?」
「受験生時代を思いだして泣いちゃいました」
「けっこう泣ける映画」だとネットのレビューに書いてあったのだ。
実際観ていなくても、情報をおさえておけば会話になる。
新潟駅でバスから降りたら海側から吹き付ける風雪がすごい。
このあたりの雪は地面に平行に降るのだと知る。
二人身を寄せあってお昼を食べに行った。
夜は観光ホテルで新潟の名酒を味わう。
そのあと部屋で彼女と何をしたか、君の想像にまかせる。
彼女とは今でも付き合ってる。
彼女が福岡まで来ることもあるし、俺が新潟に行くこともある。
離れてるけど、あまり距離感はない。
ところで。
ネットナンパ戦略を強力に押し進めて気がついたことがある。
自分の性格が変わってきた気がする。
前向きで清潔にあふれ、誠実でバイタリティにあふれる紳士。
芝居するうちに、本当にその手の男になってきている気がする。
ネットナンパは、男を成長させるってことか。