東福山駅で美沙子と待ち合わせた。
福山市で誰かいい子がいないか。
出会い系で探すこと四日。やっと彼女が見つかる。
ひと目でこの子がいいと思った。
顔に惚れたわけじゃない。
視線だ。パソコンの画面に現れた彼女の視線に胸がときめいた。
こういうこともあるんだなって思う。
目と目が合っただけで互いの相性がわかるというが、画面ごしでも可能なんだなって思った。
すぐに会いたいと交際を申し込む。
彼女も俺に対して同じ印象を持ったかは分からないがOKの返事をくれた。
駅に現れた美沙子は白いブラウスにピンクのキュロットスカートというラフな格好で季節感がなかった。
すでに十月。たまに冷んやりした風が吹く。
まっすぐに視線が合う。
どきっとする。
パソコンで見た視線よりも活きいきと心にせまる。
「芦田川ぞいを歩きたいんだけど」
「少し遠くないか」
「お天気だし、いいでしょ」
視線から相性の良さを感じると、むりに話のネタを考えて会話を充実させる必要はない。
放っておけば自然に会話が生まれ、笑顔が生まれる。
両想いのほくほくした雰囲気が少しずつ広がってくる。
河川敷に下りる。
まだ向日葵が咲いている。そういう品種なのかどうか知らないが、花の顔が小さい。
花弁が落ち、褐色の種だけ残してうなだれているものもある。夏はすでに終わったんだなと感じる。
彼女が川を見ながらしゃがんだ。
「私ナンパされたことあるのよ」
「どこで」
「東福山駅。さっきのところ」
あんな場所にナンパ男が現れるのかと不思議だったが、美沙子がそう言うのなら本当なのだろう。
「ふられたけどね。ここで」
「ここ?」
「この場所で、今日限りにしようって言われた。付き合ってたったの二日だったのよ。彼は男の目的を果たして満足だったかもしんないけど」
表情が少し曇る。
役目を終えた向日葵のような顔をしている。
要はヤリ逃げされたってことか。
「ナンパはしたことがないな」
「ナンパに興味ないの?」
「ないな。やってみようと思ったこともない」
「そう。男の人はみんなナンパするんだろうって思ったけど、そうじゃないんだ」
「男によるよ。僕はちがう」
美沙子に笑顔が戻る。
ナンパ経験のある男だったら、また捨てられるかもしれないと思ったのだろうか。
「俺のこと信用できないか?」
「そんなことない」
「太陽が隠れたらなんだか寒いなあ」
美沙子の横にしゃがむ。
「ここに来たのはね、過去とさよならするため。素敵な男性に出会えたことを実感するため。自分に自信をつけるため」
そのとき美沙子の気持ちを知った。
そっと細い肩を抱いてあげる。
「キスしたい」
「ここじゃいや・・・この場所はいやな場所だから。あなたとの思い出の場所にしたくないから」
甘えた表情が子どもっぽい。
「その辺にホテルあったよね。行ってみる?」
「うん。そこならいい」
手をつないで道路に戻った。
これから美沙子を抱く。
でも東福山駅のナンパ男みたいに身体目的じゃない。
好きな人と結ばれるためだ。
視線の中にある熱いものが本物であることを確かめるためだ。
二人だけの新しい季節が、これから始まる。