出会い系で知り合った女性と幸せになった話をしよう。
それは友人とのとるに足らぬ会話から始まった。
「出会い系で彼女作ろうかな」
悩み抜いた上での決心だった。
すると友人がこう一蹴する。
「ナンパもできねえのに出会い系に登録しても無駄だっちゅうの」
彼はナンパの達人で、女に不自由したことはない。
それにくらべて僕は今まで彼女を作ったことがなく、女性に対しても奥手。
友人には風俗で童貞を捨てたと言ってあるけど真っ赤な嘘で、二十六歳にしてまだ童貞。これが長年のコンプレックスだった。
一度だけその友人に誘われてナンパに出かけたことがある。
どうしたら良いものかわからないまま時が過ぎ、ナンパどころか女性と会話することもできなかった。
ナンパは根本的に僕にむいていないんだと悟ったよ。
本当にナンパできないと出会い系に行っても意味がないのだろうか。
でもこれしか彼女作る方法がないので、当たって砕けろの精神で登録した。
札幌市に住む女性が気になった。
爽快さと色っぽさが入り交じったような二十八歳の年上女性だった。
男性経験が豊富なのは、目つきから伺える。
でも何となく慎ましげな印象もある。
「恋人募集中。いい人だったら即ゆるしちゃうかな」
みたいなことを書いていた。
こんな過激なことを言える女性に自分が太刀打ちできるとは思えない。
でも北海道で会えて、かつ関心のある女性といえば彼女くらいなので、思いきって交際を申し込んでみた。
コンプレックスから卒業するには、少々自虐的選択をするべきだ。
失敗して痛い目に会っても、得るものはあるだろう。
「静内の人ですね。何をやってる方ですか」
と彼女からメッセが来た。
頭が真っ白になったが、気持ちを落ち着けて返事を書く。
「親が牧場をやってます。僕はその跡取りになる予定」
「牧場の御曹司が出会い系に来たわけね。静内って女性いないんだ」
「いないことはないけど、僕にとっては遙か遠い存在です」
「面白い御曹司ね」
そんなメールでの会話の末、札幌市内で会うことになった。
嬉しくないといえば嘘になる。
だけど彼女をものにする自信はまったくない。
期待より不安のほうが大きい。
彼女が夕方までバイトらしく、会えるのは十八時。
遅くなるから一泊しようと思って北海道庁付近のホテルキープした。
待ち合わせは大通り公園だったけど、すっかり暗くなっている。
札幌も九月になると夜風が冷たい。
もう少し厚着をしてくれば良かったと少し後悔。
彼女は時間を守ってくれた。
すっぽかされるかと少し心配していたので、ほっとする。
よく喋る女性だったよ。
バイトの話、食べ物の話、別れた男の話。札幌の良いところ悪い所。
よくそんなに言葉が口から出てくるものだと関心する。
でも僕が無口だからかえってよかった。この際聞き役に徹しようと思った。
彼女に一方的に喋らせて時間をつぶし、とりあえず一回目のデートを成功させるのだ。
彼女との会話がとぎれると、あわてて話題を提供し、彼女の喋りを引き出しにかかる。
退屈そうな顔をしたら、顔やスタイルを褒めて持ち上げる。それで一時間ほどつぶれた。
「飲みに行こうか。日本酒が飲みたいわ」
郷土料理の店に入る。
彼女は酒が強く、なかなか酔わない。
僕は顔が火照ってしかたない。
「あなた・・・ちょっといい?」
彼女がマジな目でかしこまる。
今日限りでお別れだという宣告だろうな。
覚悟はしている。
「あなたみたいにさ、親身になって私の話を切いてくれた人、今までいなかった。今晩は何だか嬉しいわ」
「本当ですか?」
「聞き上手に乾杯!」
おちょこをカチンと合わせる。
意外と酔っているのかもしれない。
「ねえ、これから静内に帰るの?」
「ホテルとってます」
「あら・・・私と寝ようと思ったの?」
「いや・・・そんな」
「泊まっていいかしら」
「いやその・・・それはちょっと。まいったな」
気がついたら部屋に彼女がいた。
お互い酔っていて、理性をなくしてたよ。
ふざけたのか彼女が抱きついてきたので、そのまま力任せにベッドに押し倒し、キスした。
童貞だからどうしたらいいのかわからないまま、服を脱がせて乳を口に含んだよ。
アダルトビデオで観たセックステクニックを思い出し、僕なりの愛撫をした。
でも結果は惨敗。
太股にペニスを圧しつけてたら気持ちよくなって、挿入前に射精。
嫌われただろうなと思ったけど、彼女も酔っていたし、そのまま二人で並んで寝てしまった。
「昨日のこと? 覚えてないわ」
「でもベッドで」
「エッチしたのは覚えてるけど、どんなことされたか・・・」
と言ってぼさぼさになった頭にブラシを入れる彼女。
「もう・・・今日限りですよね。僕は」
すると、彼女が微笑んだ。
「日高に馬を見に行きたいわ。今度誘って!」
友人の言葉は間違っていた。
ナンパ経験なんてあまり役に立たないと思う。
大切なのは、どうすればその女性が喜ぶかを考えること。
僕のように、お喋り好きな女性の前で聞き役に徹することもその一例だね。(結果論だけど)
そうすれば、女性もこちらに対して気を使ってくれる。
そして好意を持ってくれる。
僕がセックスに失敗したこと、彼女は知ってたと思う。
忘れたと言ったのは、僕を傷つけまいとしたからだ。きっと。
それから約十ヶ月後、彼女は牧場の御曹司の妻になった。