人見知りのシャイな男でも出会い系で女性に会える。
僕の体験をみんなに伝えたい。
せっかく和歌山市に転勤になったんだから、この新天地で彼女を作りたいと思っていた。
彼女なし二十五年というのはあまりに悲しい。
何とか作れないものか。
職場にはそれなりに素敵な女性がいる。
でも話しかけることすらできない。
話しかけようとしても緊張して声が出なくなったり、なんとか言葉を出しても断片的すぎて会話にならなかったりする。
僕は人見知りする性格で、彼女いない歴二十五年の原因はこの人見知りにあると思う。
対人恐怖症、とまではいかないけど、女性と真っ向から話すのが大の苦手なんだ。
悩んだ末、僕が選んだのは出会い系だった。
出会い系なら、女性に最初にコンタクトするとき話しかけなくてもいいからね。
メール交換で十分に意思の疎通ができるし。
それにもし会うことになったとしても、すでにお互いのことをある程度知ってるから会いやすい。
いろいろ作戦を立てた。
プロフィールをしっかり書くのもそうだけど、少しでもデートに結びつけられるように工夫したよ。
注目したのはプロフの趣味の欄。
これ意外と大事だと思う。
趣味に「読書」とか「切手収集」とか書いてもデートに結びつかない。
女性がこれ読んでどう思う?
一緒に図書館に行こうかしら、とか一緒に切手集めようかな、とか思うか?
この趣味からは何も生まれない。
理想なのは「ドライブ」「サイクリング」「サーフィン」などアウトドアが望ましい。
僕が選んだのは「釣り」だった。
これもアウトドアだからね。
世間にネットナンパって言葉があるようだ。
調べてみたら、僕が実践しようとしていることが、ネットナンパの極意として紹介されてあったので驚いたよ。
プロフを充実させるところから“口説き”が始まっていると記事には書いてあった。
いかに女性を引き寄せ、その気にさせるプロフに仕上げるか。これがネットでの“口説き”の技なのらしい。
さて出会い系に登録して一週間ほどたったある日、和歌山市内に住む二十代の女性から連絡がきたよ。
メールでいろいろ話をした。
ネットは相手が見えないから、言葉次第で相手をうまく誘導したり喜ばせたりできて、一種のゲーム感覚で話ができるよね。
人見知りかどうかなんて一切無関係。
コンプレックスを克服できそうな気がしてきた。
彼女も僕に興味を持ってくれたようで、一緒に「釣り」に行くことになった。
デートの場所は和歌山北港の魚つり公園。
海岸から二キロ沖にのびる全長一キロのひょろ長い公園だ。
そこではヒラメやスズキ、カワハギなんかが釣れるらしい。
彼女には遊び慣れて軽そうな雰囲気があったけど、釣りの経験も豊富みたいだった。
並んで釣り竿を並べた。
僕はそのとき趣味に釣りを選んでよかったと思ったよ。
なぜなら、釣りをしていると、面と向かって話をする必要がないからだ。
釣り竿の先端に集中しているふりして、海に向かってしゃべればいい。
だんだんと緊張感がほぐれ、気持ちが楽になっていく。
「ちょっと待って・・・」
彼女の釣り竿が引っ張られる。
「来たわよ・・・来た来た」
見事にアジを釣りあげる。
「すごい、おめでとう!」
海を見ながら手をたたく僕。
結局その日、僕の収穫はゼロ。
彼女の方が圧倒的に上手だったよ。
「ま、また会ってくれますか?」
緊張して聞いた。
「こちらから連絡します」
社交的な笑顔が返ってきた。
「お願いします」
でも彼女から連絡がくることはなかった。
だめだったか。・・・あ~あ。
ところで僕が挫折したとでも思ってる?
その逆だよ。
勇気を持つことができた。
人見知りの僕だって女性と釣りに行けるまでになったんだ。
これを踏み台にして、また挑戦するしかない。
今度は釣りをしながらでもちゃんと相手の顔を見て話そうと思う。
今度こそ、素敵な彼女を釣ってみせる。